「さくらのもり」で考えた。

社会福祉士が、福祉や社会保障についていろいろ考えてみるブログです。

庭には、グリーンが3つ(とバンカーが1つ)

 震災後、文字通り「雨後の竹の子」のようにNPOができた。その多くはその後活動を休止し、理事会や総会が開かれなくなり、活動報告書や計算書の提出もされず、淘汰されてしまう運命にある。おそらくこの秋ぐらいから膨大な数のNPOが姿を消してしまうのである。
 一方、震災をきっかけに生まれ、健全な活動をしているNPOも少数だが存在する。問題はその中間にある「手段と目的が逆転した団体」である。震災直後、現地入りしたある女性から「今は、ボランティアにお給料とか出してもいいんですね」と言われ、びっくりしたことがある。その程度の認識の人が多数現地には入っていたのである。そのときの彼女の顔が輝いていたのは、被災地で有意義に活動出来ている事の喜びだったのか、それとも「自分探し」ができることの喜びだったのかはわからない。
 その後、彼女はNPOを立ち上げた。理事長である彼女もしっかり給料をとっていた。(これは違法です。)監督官庁に提出する計算書には、理事への報酬はない旨、記載があったので、帳簿は二重になっているのだろう。(もちろんこれも違法です。)まさかあのときの輝いた顔は、この違法性の高い給与支給にあったのではないだろうが。
 ボランティアに報酬を支払うことは問題はない。(異なる意見の人もいるだろうが)。ただ、報酬を支払ってしまえば、労働者と変わりはないのである。報酬を支払う場合、最低賃金のことも考えなくてはならない。有償ボランティアという名称にしてしまって、最低賃金以下で働かせてはならないのである。もちろん労働基準法以下の待遇ではいけないし、労災に加入する必要も生じてくる。今年度からはじまった「日常生活総合支援事業」では、有償ボランティアをかなり大規模に組み入れるため、厚生労働省はこのあたりのことについて神経質になっている。
 被災地で長期的に支援を行おうとすると、有給のスタッフや有償ボランティアが必要になる。震災直後は無料で使えたスペースも復興が進むにつれて使えなくなり、事務所や倉庫を借りる必要もでてくる。一方、震災は風化し、あるいはあらたに他の地方や他の国で災害が発生し、資金的には苦しくなる。スタッフの経費や事務所の経費を集めるだけで手一杯になり、肝心の援助がままならないというNPOも出てきている。手段と目的の逆転である。
 震災直後は、多くの団体に大量の資金が流れ込んだ。多額のお金を管理し、使うにはそれなりの人数のスタッフも必要であるし、事務所や倉庫なども必要になる。資金の流入が減ってきても、大きくなった組織の規模を縮小することはむずかしい。特にスタッフの人数を減らすことは困難である。「意識の高い」社会に貢献する事業に携わることに懸命になるスタッフは、なかなか普通の仕事にもどることができなくなる。まさかと思われるかもしれないが、そうした組織やスタッフの中には、次なる大きな災害の発生を祈っている人もいるのである。(というか、そうでもなければ組織が維持できない)。
 で、タイトルである。震災後、2年ほどにわたり三陸に入った。三陸で見た光景で一番印象に残っているのは、陸前高田のあるおうちである。その家は津波が到達した地点より、数百メートル内陸の高台にある。家はおそらく震災後に新築された、かなりの豪邸であった。それ以上におどろいたのは、その家の庭には、ゴルフのグリーンが3つと、バンカーが1つ造ってあるのだ。私がそれを見たとき、その家の近くにはまだ仮設の避難所があり、せまい小学校の校庭にびっしりとプレハブのような建物がひしめきあっていたのに、である。
 家に戻って、グーグルの衛星写真で見てもそのグリーンは確認できた。複雑な思いがした。三陸の地元の人の間に、復興に関し「温度差」があるのだろうか。地域の人どおしが助け合えないなかで、よそ者に出来る事は何なのだろうか。よそ者は必要なのだろうか。あえてリンクは貼りません。ひまだったら、探してみて下さい。陸前高田市の小友地区?にある庭にグリーンが3つあるおうちを。

 

 

 

介護タクシーの計算式

 ほぼ2年間やってきた介護タクシーだが、今月いっぱいで廃業することに決めた。続けていけるだけの資金がなくなってしまったのだ。びっくりするような話だが、(毎年電話してくる帝国データバンクの人もびっくりして、3度聞きしたぐらいだが)昨年度の収入(売上)は、33万だった。

 

 介護タクシーで走っていると、いずれ利用してみたいという方や、自分も介護タクシーをやってみたいという方に出会うことがある。圧倒的に後者の方が多い。利用したい方より開業したい方のほうが多い業界なのである。

 

 介護タクシーというと、そこそこ楽で、そこそこ社会貢献ができて、そこそこ儲かるというイメージなのだろうか。実際は確かに楽で(仕事がないから)、社会貢献もできる(もちろんゴミ収集でも、道路工事でも社会に貢献していることに違いはなく、その意味での社会貢献かな)、しかし絶対に儲からない。

 

 一般に介護タクシーのような業態は、1日に5回しか運行できないとされている。これは国土交通省の資料にも書かれている。介護タクシーだけでなく、デマンドタクシーや(高齢者向けの)コミュニティバスなどでも同じである。一番利用の多い病院への送迎で考えてみれば、午前の診察の送迎で2回(往復)、午後の診察の送迎で2回、片道の利用(入院・退院など)で1回、という計算である。

 

 うちでも、最大で7回という日があったが、やはり5回が限界のようである。たとえばあなたが介護タクシーを始めようと思っているのなら、自宅から一番近い200床ぐらいの総合病院(近所のお年寄りがよく行く病院)までの距離を測ってみて欲しい。その距離に300円(1kmあたり)から360円を掛けた金額が、1回の料金になる。

 

 その金額に5を掛けたものが一日の売り上げ、さらに25を掛けたものが月の売り上げになる。もちろんこれはかなりきっちり仕事が入るという前提の数字でもあるし、実際にはもう少し距離のある仕事も入るので概算でしかない。

 

 ちなみにうちの場合は、2km以内に大きな病院がある。お客さんもほとんどその病院の2Km圏内の方である。つまり680円(初乗り運賃)しかもらえない方がほとんどなのである。680円で計算してみると、680×5=3,400 一日3,400円なのである。

 

 月にすると、3,400×25=85,000円 毎日びっしりと午前・午後に仕事が入ってこの金額なのである。では、ほとんどの業者はどうしているかというと、追加料金をとるのである。お客さんをタクシーに乗せる介助料金として一回に1,000円とる業者が多い。これをもらうと3,400円+5,000円=8,400円 月にすると210,000円になる。

 

 さらに車両に車いすを載せる場合、設備使用料?の名目で距離に関係なく、2,000円をとる業者もある。もし全部のお客さんが車いすで利用すれば、一日18,400円 月に 460,000円となる。このぐらいの数字になってようやく事業らしくなってくる。設備料をとらない業者でも、病院の送迎の場合、待機料として一時間あたり1,000円から3,000円ぐらいをとる業者も多い。

 

 ただ、利用する方のほとんどが病院から2km圏なのである。たかだか2Kmぐらいのところの病院に通うのに、往復で9,000円以上のお金を払わなくてはならなくなってしまう。その金額で利用してくださる方が一日に3組もあらわれるのでしょうか?

 

 車いすの方は、鉄道を利用するときは運賃は半額である。付き添いの方も一人までは半額になる。(たぶんほとんどの鉄道会社で)わたしがよく利用する鉄道では駅で駅員さんが渡り板を用意して待っていてくれて、介助してくれる。

 

 タクシーの場合、料金は半額にはならないが、障害者手帳があれば料金は一割引きになる。でも介助料金をとる業者が多いのである。鉄道はそんなものはとらないのに。駅でエレベーターを使っても追加料金なんかとらないのに。タクシーはとるのである。

 

 うちのタクシーが追加料金を取らないことに決めたのは、同じように追加料金をとらない業者が県内に2社ほどあった、ということが大きい。でもなによりも追加料金をとることは「合理的配慮」に欠けるからである。障害があろうがなかろうが、同じ料金をいただくことに何の問題もない。しかし公共サービスにおいて障害があるから追加料金となることになんの合理性も認められない。と、障がい者権利条約は謳っているのである。

 

 とはいえ、そういう追加料金をいただかないことにはうちのタクシーのように撤退することになってしまうのである。介護タクシーは流しの営業はできない。病院の前で「待ち」をすることもできない。そして施設入所者を乗せることも基本的にはできないのである。

 

 介護タクシーとは何なのか?ニーズは本当にあるのか?いろいろわからなくなってしまった。施設入所者や家庭内にこもりがちな認知症高齢者などの、QOL向上のためにと始めたタクシーだが、そろそろやめどきなのだろう。

 

 これを読んで、それでもやってみたいという方がいらっしゃたらぜひあの計算式でシュミレートしてみて欲しい。できれば追加料金はとらずにやって欲しいのだが。

 

 なぜ、施設入所者は介護タクシーを利用できないのか、という話と、病院などと契約して委託業者になれないのか、という話はまた別の機会に。

 

ハンセン病強制隔離政策

 日弁連法務研究財団が2005年3月に出した「ハンセン病問題に関する検証会議最終報告書」は、2001年に元患者が提訴した「らい予防法」違憲国家賠償請求訴訟(2003年に熊本地裁で元患者側が勝訴し、国が控訴しなかったため判決が確定)をうけて、再発防止の観点からまとめられたものである。

 日本においては、1907年に「癩予防ニ関スル件」に始まり、1996年に「らい予防法(新法)」が廃止されるまでの間、ハンセン病患者は国家により強制的に収容されていた。こうした憲法違反の状態がなぜ90年間も続いてしまったのか、その責任はどこにあるのか、それを検証し再発を防ぐことがこの報告書の目的であった。

 医療界に責任がある事はもちろんだが、報告書はさらに法曹界福祉界、教育界、宗教界、患者団体、そしてマスコミにも責任の一端がある事を認めている。

 ハンセン病はかつては「業病」と言われ、あるいは遺伝病とも考えらえていた。それがらい菌の発見により伝染病であることが科学的に証明された。このことは患者にとって救いとはならず、「因習」による差別から「科学的」な差別へと質を変えただけの差別構造におかれたままとされた。

 「業病」あるいは遺伝病であれば、差別を受けていても社会のかたすみに存在が許される場所を確保することは可能であった。しかし伝染病となったことで、患者は家族や地域からひきはがされ、療養所に隔離されることになったのである。

 強制隔離が90年も続いたことの一つの要因として、社会からの隔離・排除がある。予防法と言う「制度」により患者は社会から排除された。患者の姿は社会から見えなくなってしまった。その時、社会から見えなくなってしまったものは、患者だけではない。医療者などの援助者も、そして隔離をすすめた「制度」すらも社会から見えなくなってしまったのである。

 こうした事例は、ナチスドイツ支配下のユダヤ人の問題と非常に似通っている。そして実は現在の障がい者や高齢者の問題でもある。社会的排除が好ましくないのは、当事者の人権が侵害されるためである。だが実はそれだけではない。排除が許されないのは、援助者も制度や援助技術も社会の側からコントロールできない質のものに変化させてしまうからなのである。 (もう少し続く)。

 

ハンセン病つながりで

ひょんなことから。

 

その1 黒川温泉事件のとき、ハンセン病と温泉というのは親和性があったような、となんとなく思っていました。

 

その2 群馬県社会福祉の歴史を調べていて、草津温泉の聖バルナバ・ミッションのことを知りました。

 

その3 地域包括ケアについて調べていて、猪飼周平先生にたどりつきました。プロフィールで猪飼先生のお父さんが、Wikipediaに載っていると書いてあり、(ご本人はまだ項目がない?)調べてみるとこれが猪飼隆明先生でした。

そこからハンナ・リデルに行きつき、強制隔離問題の報告書の存在を知りました。

 

この報告書がとても面白い(というのは元患者の方には失礼ですが)、というか、ためになります。

現在、社会福祉がかかえているすべての問題が、日本のハンセン病患者がたどった歴史に含まれているといっても過言ではありません。

 

黒髪校事件などというのは、1954年に起こっているのですが、ハンセン病患者の子どもの通学に反対するPTAが「同盟休校」をしてしまう事件、つまり、その子どもたちが通学できない様に学校をPTAがロックアウトしてしまう事件なのです。

アメリカ公民権運動のリトルロック高校事件が1957年ですから、それより3年も早くこうした事件が日本で起こっていたことに驚きました。

しかも、そのときそもそも在日朝鮮人・韓国人の子どもは通学する新入生のリストに入れてもらっていなかった、という事実もあるようです。

 

報告書はPDFで全文落とせます。1,000ページ以上あると思いますがとにかく読む価値のある物です。おすすめです。

 

ハンセン病と現在の社会福祉の抱える問題を真剣に考察すると、たぶんあと10年とか20年とかかかってしまいそうなので、ほんのすこしだけ次回考察してみます。

 

大阪のことについて考えた

大阪の住民投票についていろいろな論評が出されている。

シルバーデモクラシーと言われるような、いわゆる「老害」については

仕事柄しょっちゅう見聞きしているのでいまさら驚かない。

 

今回の分析で、市バスや地下鉄の無料パスが廃止されてしまうことを危惧した

高齢者が反対にまわったことが大きかった、という論評があった。

介護タクシーをやっていると、この感覚はとてもよくわかる。

 

今の高齢者は、無料とか高齢者割引とかが大好きである。

なぜ高齢者だと割引になるのか?とか、その割引はどうやって実現しているのか?

などとは考えてくれない。

 

うちのタクシーもとても利用が少ない。もう休業も視野に入れている。

料金も県内で一番の安さだし、それなりに快適な移動ができるのだが、

きちんとした料金というのが気に入られていないようである。

 

どうしたら、高齢者にきちんとした対価で快適なサービスを買ってもらえる

ようになるのだろうか。

介護タクシーの種類

 いわゆる介護タクシーには、4つの種類があります。ケアマネさんや行政の担当者でも知らない方が多いようですので、まとめてみました。

1.一般乗用旅客自動車運送事業福祉限定)緑ナンバー
 弊社のタクシーがこのタイプです。道路運送法4条許可とも言います。利用できる方は、要支援・要介護の方、障害者手帳をお持ちの方などとなっていてどなたでもご利用いただけるわけではありません。車両は車いすやストレッチャー対応の車両だけでなく、普通の車両でも許可がおります。ドライバーに介護の資格は必要ありませんが、普通の車両(セダン型といいます)の場合のみ初任者研修以上の資格が必要となります。運賃は一般のタクシーと同じですが、乗降介助料金(だいたい1,000円)や設備利用料(車いすやストレッチャーを利用した場合に、2,000円とか)が必要な場合があります。基本的には1Kmあたり300円から400円ぐらいかかります。運行に制限はありませんので、24時間対応・行先についても制約はありません。

2.特定旅客自動車運送事業道路運送法43条許可)緑ナンバー
 指定介護サービス事業者でなければ許可がおりません。その事業者を利用する要支援者・要介護者等の「ケアプランに組み込まれた輸送のみ」行うことができます。と言っても、ケアプランに組み込まれる輸送はほとんどが費用を請求できないため、あまり意味が無いような気がします。4条許可と異なり、乗り合いでの利用が可能です。運賃はどうなっているのか正直よくわかりません。利用者との間で契約を結び届出をすればよいということですので、どういう体系なのかも不明です。近くの事業所ではもっぱら通常のデイサービスの送迎に使っているようです。その場合、運賃はどうなっているのか(デイの送迎では運賃はもらえないはず)わかりません。

3.福祉有償運送(道路運送法79条登録)白ナンバー
 いわゆるNPO輸送です。これは許可ではなく登録制です。白ナンバーですので1種免許で運転できます。登録できるのは市町村やNPOなどの非営利団体です。登録制ですが市町村の運営協議会で必要性についての合意が無ければ登録できません。本来、交通が不便な地域でなくては運営協議会の合意が得られないのですが、簡単に合意を出してしまうところもあります。一方、なかなか協議会自体を開催してくれない自治体もあるようです。協議会には利害関係者が出席することになっているので、一般のタクシー・バス事業者や弊社のような介護タクシー事業者も出席しなくてはいけないのですが、弊社に協議会開催の話がきたことはありません。運賃はおおむね一般のタクシーの半額程度ということになっているので、1Kmあたり150円ぐらいです。利用できるのはNPOの場合、会員のみとなりますので入会金や年会費などが必要になります。運行できる範囲は協議会を開催した自治体にある自宅と病院や商業施設などの往復となっています。(病院や商業施設が他の自治体にあってもかまわない)複数の自治体に居住する会員のニーズに応えるためには、複数の自治体で協議会を開催してもらう必要があります。早朝・夜間は運行しない事業者がほとんどですし、土曜や日曜は休むところも多いようです。利用の目的も限定され、買い物は日用品までなどと規約で定めている事業者がほとんどです。飲食店もお酒を主に出す店(居酒屋など)はだめとか、飲酒しての乗車はだめ、などとなっているようです。ドライバーは主に主婦のパートと定年退職後の男性が多いようです。

4.自家用自動車有償運送(道路運送法78条許可)白ナンバー
 ヘルパーによる有償運送です。介護事業所の指定を受けている法人に所属するヘルパーさんやケアマネさんが自分の車を使って行う有償運送です。たとえば訪問介護を行っているヘルパーさんが、利用者さんを病院に連れて行くなどという場合です。運行はケアプランに組み込まれたもののみであり、運行エリアも介護事業所の営業範囲となります。運賃はガソリン代程度ということで1Kmあたり30円ぐらいとなります。

 これ以外の介護タクシー福祉タクシー(を名乗るもの)は、すべて違法です。と、言いたいところですが、上にあげた4つの種類でもかなり違法行為がまかり通っています。1番の(福祉限定)介護タクシーは4種類の中ではもっとも運賃が高いため人気がありません。そのためケアマネと組んで、訪問介護1時間のケアプランを組んでもらい、実際はタクシーでの送迎を行って介護報酬を請求する(タクシー事業者は1時間分で4,000円の
売上がたち、利用者は400円でタクシーに乗れる)というやりかたをとっている事業者もあります。もちろん不正請求ですが、タクシー事業者とケアマネが身内だったり、市町村(介護保険の保険者)が黙認していたりすると発覚しません。市町村が黙認してしまうのは、路線バスが撤退してしまったような交通が不便な地域の住民から代替交通の要求を出されると多額の経費がかかるといった事情があるのかもしれません。

 2番目の特定旅客自動車運送事業については運行形態がよくわからないのですが、デイの送迎に使っているというのはあきらかに違法です。デイの送迎に運賃を請求してはいけないし、運賃を請求せずに運送事業を営んではいけないのです。3番目の福祉有償運送はわりと不正が少ないようです。ただ福祉有償運送の場合、片道のみの利用や復路などでの寄り道、自宅以外への送りはいけないはずなのですが実際には行っている事業者もあるようです。

 4番目のヘルパー輸送はほとんど闇です。弊社のお客さまに伺ったお話では、ケアプランに基づかない運行、というよりヘルパーとして勤務していない時間帯に運行してくれたりします。その場合運賃は1Km30円ではなく1回3,000円となったりするようです。請求したりといったケースもあるようです。またお金をとらないかわりに宗教の勧誘をされたり、商品を買わされたりという話も耳にします。

 まじめにやっている事業者はわりとみんな大変な思いをしています。特に我々のような4条許可の介護タクシー福祉有償運送の事業者です。福祉有償運送はよほどうまくやらないと事業の継続はむずかしくなってきています。4条許可の介護タクシーはよほどうまくやっても経営は難しい状況です。

大きな政府と小さい政府

 「大きな政府」と「小さな政府」という概念がある。大きな政府というと、北欧のたとえばスウェーデンデンマークのような税金は高いが医療や福祉が充実していて、しかも全国民が無料でその恩恵にあずかれる国、というイメージだろうし、反対に小さな政府とはアメリカのように、税金はまあ安いが福祉や医療は自己負担・自己責任でというイメージがある。
 ここに一つの資料がある。厚生労働省が平成25年にだした「介護保険制度の現状と今後の役割」という資料である。この資料には、介護保険導入前と導入後という比較の表が記載されている。

 この表には、介護保険導入前は1時間950円かかったホームヘルプサービスが、導入後は(1割負担なので)400円になりました、と書いてある。ここで疑問が湧いてきてしまう。介護保険以前のホームヘルプサービスは、おそらく派遣婦紹介所のようなところと利用者とが直接契約をしていたはずである。すなわち利用者から紹介所に950円支払うだけで完結していたわけで、動いていたお金はそれだけである。介護保険導入後は利用者は400円を支払う。これは利用料の1割なので残りの3、600円は、国保から事業者に支払われる。介護保険を導入すると、950円が4,000円に化けてしまうのである。
ある意味、これが大きな政府のトリックであり「小さな政府」派が批判するのはこの部分である。

 では、動くお金が4倍になったところでヘルパーの給与は4倍になったのだろうか。私はアルバイトで障がい者のヘルパーをやっている。介護と少し異なる部分もあるが、ほとんど同じと思っている。今ある障がい者のサポートをしている。時給は1,250円である。事業所に支払われるお金は総額で1時間あたり4,000円である。さきほどの950円(おそらく事業所が20%ぐらい手数料をとってヘルパーさんの手取りは750円から800円ぐらい)からすれば、1,250円という給与はよくなっている。しかし控除率でみれば今のやり方では68%にもなるのである。ホームヘルプサービスは(うちの事業所では)電話やメールで仕事をもらい、自力で現場に行ってそのまま帰宅するという究極の派遣である。いまどき労働者派遣業者が70%近いピンハネを行っているケースなんてあるのだろうか。

 現実的な問題としてある利用者さんの場合を紹介しよう。私はその利用者さんの交通機関利用の付き添いをしている。30分かけてご自宅の近くの駅まで車で行き、一緒に公共交通機関に乗り、目的地まで付添う。給与が発生するのはこの交通機関内での付き添いの部分のみである。その後もとの駅まで戻り、自宅にもどると、2時間30分以上が経過していることが多い。たった1時間の仕事でも仕事先までの往復時間は通勤時間とみなされる。実質的な時給(拘束時間から考えた時給)は、500円台ということになる。

 では、4,000円と1,250円の差額がどこに消えてしまっているのかというと、よくわからない。訪問の事業所が「経営が苦しい。福祉はもうからない」と言っているのを聞くとさらにわからなくなる。実は4,000円以外にも、計画を立てたり、報酬の申請を受けたり、支払ったりという事務方の部分にもお金がかかっている。4、000円がさらに4,200円とか4,500円とかに化けているのかもしれない。

 介護保険では、自己負担分との差額、この場合では3,600円は保険料と税金で賄われている。それなら、介護保険なんかやめちゃって950円をあるいは(950円は15年前の数字なので)1,500円とかをサービスを利用した人にそのまま返しちゃったほうがいいのではないか、そうすれば国民負担は半分になる、というのが「小さな政府」派の言い分なのである。(給付付き税額控除のようなシステムもある)。「大きな政府」「小さな政府」についてもう少し考えてみませんか?