「さくらのもり」で考えた。

社会福祉士が、福祉や社会保障についていろいろ考えてみるブログです。

介護保険改定への誤解

 昔からPodcastというものが好きで、いろいろな番組を楽しんでいる。Podcastにも福祉分野の番組があるが、その数は少ない。その中で長寿番組と
言えば「福祉探偵団」ということになる。この番組は関西地方の社会福祉士2人が対談するかたちの番組で、毎回さまざまなテーマを”ときにはポジティブに、ときにはネガティブに”とりあげている。残念なことに開始当初よりこの番組は劣化してきてしまっている。その一例が2月末に配信された「介護保険改定」の回だ。この回の放送の内容も残念なものであった。専門職である社会福祉士福祉や介護に関する知識のない一般のリスナーに解説するという目的であれば、マスコミの論調などとは異なる視点から のメッセージが欲しかった。

 番組では、予算の問題(財政の問題?)で介護報酬がカットされそうなこと、特に施設系サービス(特養)と社会福祉法人がやり玉にあげられていること、報酬削減でさらに介護職の処遇改善なんて無理。などという話題がとりあげられた。誤解というか曲解がはなはだしい内容であり、本来なら一つ一つ反論すべきなのだろうが、ここでは一般の人が誤解していて、マスコミではあまり取り上げられないところだけ解説してみたい。

 まず介護報酬削減の話である。介護報酬とは医療でいうところの診療報酬とおなじ概念であり、たとえば訪問介護(身体)1時間なら400単位、1単位10円なので4、000円というものである。(あくまでも簡略なはなしである)。つまりあなたの家にヘルパーさんが来てくれて、おむつを交換してくれたり、食事の介助をしてくれた場合、その事業者は4,000円介護保険からもらえますよ、ということである。これは公定価格であり、事業者単位で割引価格を設定することもできるがそれはまれなケースである。

 今回の改定では、訪問介護で身体介護が中心である場合、それまでの404単位から388単位に改定された。約4%の削減である。これでは介護事業者はやっていけない、という論調が盛んであり「福祉探偵団」でもそう解説しているのだが、介護報酬削減を利用者の側から見るとこれは値下げなのである。いままで1割の404円支払っていた自己負担が4月からは388円で済むのである。残念ながら介護報酬削減を利用者の負担軽減という側面でとらえたメディアは少ない。

 同じことは介護職の処遇改善についても言える。介護報酬の改定率は全体でマイナス2.27%だがこの数字はサービスに対する改定率マイナス4.48%に介護職員の処遇改善費用プラス1.65%をあわせたものである。訪問介護の場合、さきほど改定率はマイナス4%としたが、処遇改善がおこなわれた場合8.6%が加算される。すなわち388単位(3,880円)が、423単位(4,230円)となるのである。

 介護事業所や職員からすれば、介護報酬削減はとんでもない話であり、職員の処遇改善はよろこばしいことである。しかし利用者側からすれば、報酬削減は値下げに当たり、介護職員処遇改善は値上げになるのである。

 介護サービスも世間一般のサービスと同様に、サービス提供者と消費者は対立した関係となる。価格があがれば提供者にとっては利益の増大になり、消費者にとっては負担が増すことになる。価格が下がれば消費者にとっては負担の軽減になるが、供給側は対応をせまられる。この間のマスコミの論調ではこうした関係を見せないようにしていることが多い。介護の問題は国民的課題であるから、介護報酬が減らされるのはよくない、処遇改善がされるのは好ましい、といった風潮である。

 本来、消費者としては4月から人件費の部分が8%以上も高くなったのに、とりわけサービス内容がよくなるわけでもないし、急に技量があがるわけでもない。もちろん基本の部分は4%安くなっているわけだが、かといってその部分も3月とは何も変わっていない。ではいままでの価格は適正だったのだろうか、という疑問をもってしかるべきである。そう考えるのが現在の福祉サービスの健全なあり方なのである。