「さくらのもり」で考えた。

社会福祉士が、福祉や社会保障についていろいろ考えてみるブログです。

介護タクシーの計算式

 ほぼ2年間やってきた介護タクシーだが、今月いっぱいで廃業することに決めた。続けていけるだけの資金がなくなってしまったのだ。びっくりするような話だが、(毎年電話してくる帝国データバンクの人もびっくりして、3度聞きしたぐらいだが)昨年度の収入(売上)は、33万だった。

 

 介護タクシーで走っていると、いずれ利用してみたいという方や、自分も介護タクシーをやってみたいという方に出会うことがある。圧倒的に後者の方が多い。利用したい方より開業したい方のほうが多い業界なのである。

 

 介護タクシーというと、そこそこ楽で、そこそこ社会貢献ができて、そこそこ儲かるというイメージなのだろうか。実際は確かに楽で(仕事がないから)、社会貢献もできる(もちろんゴミ収集でも、道路工事でも社会に貢献していることに違いはなく、その意味での社会貢献かな)、しかし絶対に儲からない。

 

 一般に介護タクシーのような業態は、1日に5回しか運行できないとされている。これは国土交通省の資料にも書かれている。介護タクシーだけでなく、デマンドタクシーや(高齢者向けの)コミュニティバスなどでも同じである。一番利用の多い病院への送迎で考えてみれば、午前の診察の送迎で2回(往復)、午後の診察の送迎で2回、片道の利用(入院・退院など)で1回、という計算である。

 

 うちでも、最大で7回という日があったが、やはり5回が限界のようである。たとえばあなたが介護タクシーを始めようと思っているのなら、自宅から一番近い200床ぐらいの総合病院(近所のお年寄りがよく行く病院)までの距離を測ってみて欲しい。その距離に300円(1kmあたり)から360円を掛けた金額が、1回の料金になる。

 

 その金額に5を掛けたものが一日の売り上げ、さらに25を掛けたものが月の売り上げになる。もちろんこれはかなりきっちり仕事が入るという前提の数字でもあるし、実際にはもう少し距離のある仕事も入るので概算でしかない。

 

 ちなみにうちの場合は、2km以内に大きな病院がある。お客さんもほとんどその病院の2Km圏内の方である。つまり680円(初乗り運賃)しかもらえない方がほとんどなのである。680円で計算してみると、680×5=3,400 一日3,400円なのである。

 

 月にすると、3,400×25=85,000円 毎日びっしりと午前・午後に仕事が入ってこの金額なのである。では、ほとんどの業者はどうしているかというと、追加料金をとるのである。お客さんをタクシーに乗せる介助料金として一回に1,000円とる業者が多い。これをもらうと3,400円+5,000円=8,400円 月にすると210,000円になる。

 

 さらに車両に車いすを載せる場合、設備使用料?の名目で距離に関係なく、2,000円をとる業者もある。もし全部のお客さんが車いすで利用すれば、一日18,400円 月に 460,000円となる。このぐらいの数字になってようやく事業らしくなってくる。設備料をとらない業者でも、病院の送迎の場合、待機料として一時間あたり1,000円から3,000円ぐらいをとる業者も多い。

 

 ただ、利用する方のほとんどが病院から2km圏なのである。たかだか2Kmぐらいのところの病院に通うのに、往復で9,000円以上のお金を払わなくてはならなくなってしまう。その金額で利用してくださる方が一日に3組もあらわれるのでしょうか?

 

 車いすの方は、鉄道を利用するときは運賃は半額である。付き添いの方も一人までは半額になる。(たぶんほとんどの鉄道会社で)わたしがよく利用する鉄道では駅で駅員さんが渡り板を用意して待っていてくれて、介助してくれる。

 

 タクシーの場合、料金は半額にはならないが、障害者手帳があれば料金は一割引きになる。でも介助料金をとる業者が多いのである。鉄道はそんなものはとらないのに。駅でエレベーターを使っても追加料金なんかとらないのに。タクシーはとるのである。

 

 うちのタクシーが追加料金を取らないことに決めたのは、同じように追加料金をとらない業者が県内に2社ほどあった、ということが大きい。でもなによりも追加料金をとることは「合理的配慮」に欠けるからである。障害があろうがなかろうが、同じ料金をいただくことに何の問題もない。しかし公共サービスにおいて障害があるから追加料金となることになんの合理性も認められない。と、障がい者権利条約は謳っているのである。

 

 とはいえ、そういう追加料金をいただかないことにはうちのタクシーのように撤退することになってしまうのである。介護タクシーは流しの営業はできない。病院の前で「待ち」をすることもできない。そして施設入所者を乗せることも基本的にはできないのである。

 

 介護タクシーとは何なのか?ニーズは本当にあるのか?いろいろわからなくなってしまった。施設入所者や家庭内にこもりがちな認知症高齢者などの、QOL向上のためにと始めたタクシーだが、そろそろやめどきなのだろう。

 

 これを読んで、それでもやってみたいという方がいらっしゃたらぜひあの計算式でシュミレートしてみて欲しい。できれば追加料金はとらずにやって欲しいのだが。

 

 なぜ、施設入所者は介護タクシーを利用できないのか、という話と、病院などと契約して委託業者になれないのか、という話はまた別の機会に。