「さくらのもり」で考えた。

社会福祉士が、福祉や社会保障についていろいろ考えてみるブログです。

大きな政府と小さい政府

 「大きな政府」と「小さな政府」という概念がある。大きな政府というと、北欧のたとえばスウェーデンデンマークのような税金は高いが医療や福祉が充実していて、しかも全国民が無料でその恩恵にあずかれる国、というイメージだろうし、反対に小さな政府とはアメリカのように、税金はまあ安いが福祉や医療は自己負担・自己責任でというイメージがある。
 ここに一つの資料がある。厚生労働省が平成25年にだした「介護保険制度の現状と今後の役割」という資料である。この資料には、介護保険導入前と導入後という比較の表が記載されている。

 この表には、介護保険導入前は1時間950円かかったホームヘルプサービスが、導入後は(1割負担なので)400円になりました、と書いてある。ここで疑問が湧いてきてしまう。介護保険以前のホームヘルプサービスは、おそらく派遣婦紹介所のようなところと利用者とが直接契約をしていたはずである。すなわち利用者から紹介所に950円支払うだけで完結していたわけで、動いていたお金はそれだけである。介護保険導入後は利用者は400円を支払う。これは利用料の1割なので残りの3、600円は、国保から事業者に支払われる。介護保険を導入すると、950円が4,000円に化けてしまうのである。
ある意味、これが大きな政府のトリックであり「小さな政府」派が批判するのはこの部分である。

 では、動くお金が4倍になったところでヘルパーの給与は4倍になったのだろうか。私はアルバイトで障がい者のヘルパーをやっている。介護と少し異なる部分もあるが、ほとんど同じと思っている。今ある障がい者のサポートをしている。時給は1,250円である。事業所に支払われるお金は総額で1時間あたり4,000円である。さきほどの950円(おそらく事業所が20%ぐらい手数料をとってヘルパーさんの手取りは750円から800円ぐらい)からすれば、1,250円という給与はよくなっている。しかし控除率でみれば今のやり方では68%にもなるのである。ホームヘルプサービスは(うちの事業所では)電話やメールで仕事をもらい、自力で現場に行ってそのまま帰宅するという究極の派遣である。いまどき労働者派遣業者が70%近いピンハネを行っているケースなんてあるのだろうか。

 現実的な問題としてある利用者さんの場合を紹介しよう。私はその利用者さんの交通機関利用の付き添いをしている。30分かけてご自宅の近くの駅まで車で行き、一緒に公共交通機関に乗り、目的地まで付添う。給与が発生するのはこの交通機関内での付き添いの部分のみである。その後もとの駅まで戻り、自宅にもどると、2時間30分以上が経過していることが多い。たった1時間の仕事でも仕事先までの往復時間は通勤時間とみなされる。実質的な時給(拘束時間から考えた時給)は、500円台ということになる。

 では、4,000円と1,250円の差額がどこに消えてしまっているのかというと、よくわからない。訪問の事業所が「経営が苦しい。福祉はもうからない」と言っているのを聞くとさらにわからなくなる。実は4,000円以外にも、計画を立てたり、報酬の申請を受けたり、支払ったりという事務方の部分にもお金がかかっている。4、000円がさらに4,200円とか4,500円とかに化けているのかもしれない。

 介護保険では、自己負担分との差額、この場合では3,600円は保険料と税金で賄われている。それなら、介護保険なんかやめちゃって950円をあるいは(950円は15年前の数字なので)1,500円とかをサービスを利用した人にそのまま返しちゃったほうがいいのではないか、そうすれば国民負担は半分になる、というのが「小さな政府」派の言い分なのである。(給付付き税額控除のようなシステムもある)。「大きな政府」「小さな政府」についてもう少し考えてみませんか?